銀座ファースト法律事務所所長のつぶやき

弁護士田中清のブログ。最近気になることや、趣味のことなど雑記。

尼崎18 橋本支部長から鈴木支部長へ

 昭和50年10月、尼崎支部長が橋本支部長から鈴木支部長に交替になりました。私が裁判官に任官して5年目のことです。
 鈴木支部長も京都地裁刑事部のベテラン裁判長で、学生刑事事件や労働刑事事件を数多く経験された方です。
 私は、刑事合議部の左陪席を引き続き担当することになりました。前にも申し上げましたが、金沢地裁刑事部部長の加藤裁判長及び河合裁判長共に、きちんと合議はしましたが、判決書自体は、有罪の場合は起訴状に少し手を加えた程度でしたので、余り労力は掛かりませんでした。
 特に、河合裁判長は、「刑事判決は、結論すなわち、量刑が大事なんですよ。結論が決まったら判決書は、簡単でいいですよ」と言われておりました。
 しかし、橋本支部長は、「量刑はもちろん大事ですが、判決書自体も格調高いものでなくてはなりません。起訴状どおりではなく、被告人の生い立ちから書き上げて、なぜ被告人がこのような犯罪を犯すに至ったのかが分かるように判決書を起案してください。」と言われました。
 口で言うのは簡単ですが、被告人がこのような犯罪を犯すに至ったのかが分かるように判決書を起案するには、河合裁判長の判決起案の1.5倍の時間が掛かります。
 鈴木支部長の起案方針は、橋本支部長の方針に加えて、「なぜ被告人にこのような量刑を科したのかが分かるように詳しく起案するようにしてください。」というものでした。したがって、河合裁判長の判決起案の2倍の時間が掛かりました。
 刑事裁判では、判決書朗読後、何故このような量刑にしたのか、被告人に対し今後生活上気を付けるべきことなどを訓戒することができ、これは、刑事訴訟規則221条の「裁判長は、判決の宣告 をした後、被告人に対し、その将来について適当な訓戒をすることができる」という規定に基づくものです。私たちは、この訓戒のことを、説諭と呼んでおります。
 橋本支部長の説諭は、考えたことをかみ砕いておっしゃるので、お上手だと思いましたが、鈴木支部長は、起案に書いた量刑の理由をそのまま朗読されるので、果たして被告人に理解できたかなと心配になりました。例えば「本件については、示談も成立しており、被害者も宥恕(ゆうじょ)していること」と読んでも、被告人には「宥恕」の意味が分かったのかなあと心配になったことがあるのです。
 このような経験を踏まえて、私の刑事事件の処理方針は、①量刑が一番大事であること、②判決起案は簡単で良いこと、③説諭はなるべく自分の言葉で話すことにしようと思いました。

  弁護士法人銀座ファースト法律事務所 弁護士 田中 清