中学校その8 初恋の4
久美の姿を見ては、一喜一憂した中学3年生1学期は、苦しくも楽しい日々だった。これが初恋なのか、このような苦しくも楽しい気持ちが初恋なのかと初めて知った。一日中、久美のことが頭から離れなかった。
そんなとき、島崎藤村の「初恋」の詩を読んだ。そうだ、これが私の初恋の気持ちを代弁しているのだと思った。
まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり
わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情に酌みしかな
林檎畑の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ
上記「初恋」の詩は、何度も何度も読み、もちろん暗記した。詩を読むたびに、詩を口ずさむ度に、久美のことが想い浮かんだ。