大学28 K子からの別れ話
9月中旬のデートのときだった。白いワンピースの清楚な服装で現れたK子を、待ち合わせ場所である阪急電車高槻市駅で見たとき、今日は、これまでで、一番綺麗なK子だと思った。
南禅寺のインクラインを望む人影のない堤防で座っているとき、K子から突然別れ話が出た。
「私は、田中さんのことが大好きです。ずっと前からその気持ちは変わりません。そして、今も大好きです。……。でも、田中さんは、私のことを好きじゃないみたいです。……。そしたら、早いうちに別れた方がいいんじゃないかと思うんです。……。でも本当は、別れたくないんです」
後半は、涙声だった。K子なりに随分考えた結論だろう。そして、私の心の中も見透かしているような言葉だった。
しかし、いきなり別れ話を持ちかけられると、「別れたくない」と思う気持ちが心を支配する。
「K子は、俺にとっても大事な人だよ。俺は、別れたくないよ」というと、K子は、これまでにないような嬉しそうな顔をして、「本当?別れなくてもいいの。本当にいいの」とたたみ掛けてきた。
「いいよ。もっと付き合おうよ」
「嬉しい」
私は、K子の肩を抱き寄せ、深いキスをした。
K子には言わなかったが、今日のK子は、本当に綺麗だった。
弁護士 田中 清