銀座ファースト法律事務所所長のつぶやき

弁護士田中清のブログ。最近気になることや、趣味のことなど雑記。

大学40 住友銀行の面接

 短答式試験が終わって数日経ったときだった。
 1年上の先輩の吉岡さんから自宅に電話が掛かってきた。
「田中さんでいらっしゃいますか。」
「はい、そうですけど」
「私は、法律相談部でお世話になりました吉岡で、今、住友銀行に勤務しているものですが、是非とも当行に面接においでいただけませんでしょうか」
 吉岡さんの余りに丁寧な口調にびっくりした。
 去年までの吉岡さんなら「おい、田中、今どないしている。俺は、今、住友銀行におるんやけど、今度面接に来てくれへんか」というはずである。
 その後しばらく話して、2日後に住友銀行本店人事部を訪問することを約束した。

 当日、本店人事部を訪問すると、京都大学法学部出身の人事部の先輩のAさんが応対してくれた。ほとんど雑談で家族関係とか、法律相談部のこと、趣味などを聞かれたが、最後に「共謀共同正犯というのはどういうものですか。それについてどう思いますか」と聞かれた。もちろん、短答式試験を終わった直後なので、ほぼ理想的な答えができた(はずである)。おそらく、Aさんは、「司法試験を受けているといっても、どの程度真面目に勉強しているのだろう。ろくに勉強もしないで、記念受験をしているのか、それともきちんと法律を勉強しているのかどうか」を確認したかったのだと思う。しかし、それ以上に法律に関する質問は一切なかった。
 Aさんは、「私としては、田中さんには是非とも当行に来ていただきたいと思います。当行に入行していただければ、田中さんは、10年で支店長です。そのころには、月給も30万円くらいはもらえると思います」とおっしゃった。司法修習生の給与は当時月額約3万5000円であり、大卒の初任給もその程度だったと記憶する。10年後とはいえ、月額30万円というのは、途方もなく高額の給与であった。
 私は、「大変ありがたいお話ですが、私は、司法試験を受けております。短答式が受かれば、お断りさせていただき、司法試験に全力を掛けたいと思います」と答えた。

 自宅に帰ってから、母親に面接の結果を話したところ、「そんな受かるかどうか分からん司法試験なんか止めて、住友銀行に行ったらいいのに」と、言われた。
 両親の時代からみると、銀行は最高の就職先である。特に、住友銀行といえば、銀行の中の銀行であり、両親とすれば願ってもない就職先であった。反面、両親は、裁判所は固すぎる、弁護士は生活が不安定だという認識を持っており(間違いではないが)、両親とすれば、司法試験に落ちて、住友銀行に行ってほしいという気持ちを強く持っていたことは十分に分かっていた。
 次の日、吉岡さんから面接のお礼の電話があった。吉岡さんには、「短答式試験を落ちればよろしくお願い申し上げます。」と、答えておいた。

 試験から1週間目の日曜日には、K子と久しぶりのデートをした。K子善福寺の誓いから丁度2年余りである。どこかのお寺に行ったと思うが、どこに行ったかは覚えていない。K子には、「短答式に受かれば、大変だよ」と答えておいた。
 仮に、短答式試験に受かっても、論文式試験は、不安だった。商法、民事訴訟法、国際私法、会計学の4教科については、しばらく本をめくっていない。しかし、不思議なことに論文式試験の勉強をしようとは、全く思わなかった。

 弁護士 田中 清