パトカー試乗
やはり検察修習中だったと思う。
パトカー試乗という修習で、パトカーに乗せてもらった。パトカーの刑事さんは2人で、パトカーの後ろに修習生2人が乗せてもらい、街の中をパトロールする。
「そこの自転車、2人乗りは危ないですよ。降りなさい」というと、直ちに降りる。
パトカーは、阪神高速道路に入った。「阪神高速道路とはいっても、一般道であり、制限時速は60㎞なんですよ。勘違いしている人が多いですけどね。」パトカーの刑事さんはそう言いながら、時速100㎞くらいで抜いていく自動車を発見し、その後を追った。その自動車の後ろにピタッとくっつき、時速を固定する。
その後で、「白いベンツの車、左端に寄せて止まりなさい。白いベンツの車、左端に寄せて直ちに止まりなさい。」と呼びかけた。
パトカーの刑事さんがベンツの運転手に対し、「免許証を出していただけますか。」というと、その運転手は「実は、免許証を持っていないんです。」と答えた。パトカーの刑事さんのうちの一人が、「時間が掛かりそうですが、被疑者を運転させて署まで同行するわけにもいきません。申し訳ないですが、一人が最寄りの駅までお送りしますので、試乗はこれで終わらせていただいてもよろしいでしょうか。」とおっしゃったが、もちろん異論があろうはずがない。
最寄りの駅まで送っていただいて、この日の試乗を終えた。
パトカーに乗ってパトロールすると、市民が道を空けてくれ、一斉に両脇に寄る。何か自分が偉くなったようで、いい気持になる。しかし、権力の行使を気持ちが良いと思ってはならない。心では分かっているが、いい気持になってしまうのはどういうことか、心の中の葛藤を感じた1日であった。
また、高速道路での追尾は、相当な危険を伴う。相手方も制限速度を超えている。追尾に気付くと相手方も速度を上げることがある。「命懸けの仕事だな」と思った。
弁護士 田中 清(弁護士法人銀座ファースト法律事務所)