秋の夜を……

　　秋の夜を　ひたすら学ぶ六法に　恋という字は　見出でざりけり

　元大阪府知事黒田了一様の短歌ですが、当時の、我々司法試験の受験者は、大部分の人が知っている短歌であったと思います。
　恋も愛も振り捨てて、ひたすら無味乾燥な六法に打ち込んでいた当時が懐かしく思い出されるのです。

　　民法の　７０９条に「こい」といふ　字を見つけたり　嬉しくもあるか

　民法７０９条には、「故意又は過失に因りて他人の権利を侵害した者は、これに因りて生じたる損害を賠償する責に任ず」(旧条文)との規定があります。
　私も、いろいろな条文を見ましたが、民法７０９条以外には、「こい」という字は、見当たりませんでした。
　この故意(こい)という言葉にでさえ、ときめいた当時の司法試験受験生は、本当に可哀そうな青春でしたね。もう二度と受験生には戻りたくないと思います。

　弁護士　田中　清(弁護士法人銀座ファースト法律事務所)