銀座ファースト法律事務所所長のつぶやき

弁護士田中清のブログ。最近気になることや、趣味のことなど雑記。

金沢その13 詐欺罪の大事件の判決 その1

 詐欺事件で、70歳の母親A子、45歳の息子B、金融機関の職員Cが共同起訴された事件があった。
 A子、Bについては詐欺罪、Cについては業務上横領罪というものである。訴因は合計115件、A子・Bの共謀の詐欺事件が30件、A子単独の詐欺事件が60件、B単独の詐欺事件が25件、Cの業務上横領が115件だったと記憶する。
 私が金沢地裁に着任したときには、審理は終盤に差し掛かり、2週間〜3週間に1回、各被告人の本人質問が行われていた。
 訴因の一例をいうと、A子がCに対し、「Bが交通事故を起こし、被害者との示談のために300万円要るので、300万円貸してほしい」旨虚偽の事実を申し向け、Cは、これを信じ、勤務する金融機関から300万円を横領して、A子に貸し渡した、というものである。しかし、全員が公訴事実を否認しており、全部について詳細な言い訳を準備していた。

 被告人質問の印象からいうと、A子は、上品な老女、昔はさぞかし綺麗な女性だっただろうと思われるような人であり、Bは、どこにでも居ると思われる中年のハンサムな男性、Cは、いかにも真面目な金融機関の行員といった印象であった。
 私は、この事件を含め、その後、何人かの詐欺罪の被告人の裁判をしたことがあるが、一様にまじめそうな人であり、男性はハンサム、女性も美人で上品な人が多い。

 弁護士になって、詐欺罪の被害にあった人が相談に来られることがあり、押しなべて、「相手方は、とても、詐欺をする人に見えないんですよ」とおっしゃる。私は、「詐欺を働く人で、いかにも詐欺を働くと見える人はいませんよ。身なりもきちんとした人で、真面目そうな人ばかりですよ。そうでないと、詐欺は成功しないのですよ」ということにしている。このように言う根拠には、このA子・Bの詐欺事件が影響していることは、確かである。

 この事件は、その年の12月中旬ころ終結し、判決言い渡しは、次の年の2月中旬と定められた。
 記録は、大きな段ボール箱で14個、6畳の部屋が一杯になった。裁判官になって初めての一番大きな仕事だった。

  弁護士 田中 清(弁護士法人銀座ファースト法律事務所)