銀座ファースト法律事務所所長のつぶやき

弁護士田中清のブログ。最近気になることや、趣味のことなど雑記。

金沢14 詐欺事件の大事件の判決 その2

 当時の判決は、すべて手書きであり、ワープロはない。判決は、その手書きの原稿ももとに、タイピストがタイプするのである。
 私は、起案の時間の短縮のために、「被告人」「検察官」「司法警察員」「の当公判廷における供述」「の検察官に対する昭和  年  月  日付け供述調書」「の司法警察員に対する昭和  年  月  日付け供述調書」「作成の昭和  年  月  日付け実況検分調書」などの印判をハンコ屋さんに注文し、準備した。そして、これからも刑事事件をすることが多いと思い、自分の費用で購入することにした。

 昭和47年1月2日の早朝から起案に取り掛かった。
 まず、番号、公訴事実。この認定に使用した証拠番号(認定証拠番号)の表を作成し、「公訴事実」欄には、検察官が起訴した公訴事実を切り取って貼り付けた。
 次に記録読みである。調書等を読むたびに、証拠の標目には、「被告人A子の当公判廷における供述……1」「被告人Bの司法警察員に対する昭和40年3月2日付け供述調書……87」のように、証拠の標目と証拠番号を記載し、さらに別表の認定証拠番号欄に証拠の標目番号を記入した。
通常なら、「第1 判示第1の事実につき
         ・・・・
      第2 判示第2の事実につき
         ・・・・」
と書くものである。
 証拠の標目とその番号、別表の作成と認定証拠番号の記載は、私が考え出した発明であり、我ながら良く考え付いたものだと思った。

 昭和47年1月2日から段ボール14箱の記録を読むことに専念し、読み終えたのは1月12日のことであった。そして、判決書に2日間を掛け、1月14日には判決起案が完成した。この結果、109件の公訴事実については有罪であったが、6件の公訴事実については、対応する証拠がなかったので、無罪とした。検察官が起訴するときに、証拠との対応が不十分のまま起訴したのであろう。刑事事件には珍しい間違いである。
 正月休みはすべて潰し、この判決起案のために、20日まではお休みをいただくことは、裁判長には伝え、了承を得ていた。6日早く起案が終わったので、1月15日(当時は成人の日で祝日)は、ゆっくりと家で過ごし、1月16日から出勤した。
 裁判長から、「ご苦労様。別表の作成と認定証拠番号の記載は、良かったね。」と褒められ、苦労が報われたと思った。

  弁護士 田中 清(弁護士法人銀座ファースト法律事務所)