金沢３０ 泉裁判官のこと

　昭和４８年４月に、泉徳治裁判官が金沢地裁に赴任されました。その年の２月に、転勤をされる予定の林輝裁判官から、「泉裁判官というのは、京大卒ですが、とても優秀な方ですよ」とお聞きしました。林輝裁判官も京大卒で、話しているうちに、下宿していた南陽院の先輩だということも分かり、話が盛り上がりました。
　泉裁判官は、初対面のときに、「田中さん、私は、これまで刑事事件や倒産事件をやったり、総務関係の仕事に就いていましたが、民事事件は初めてなんですよ。教えてくださいね」とおっしゃったのです。私は、そのまま額面どおりに受け取って、「いいですよ。分かりました。よろしくお願い申し上げます。」と答えました。
　その後、加藤裁判長、泉裁判官、私の構成で、最初の民事判決起案がありました。私が最初の起案を仕上げて泉裁判官のところに持って行って、添削をお願いしました。
　１週間ほどして、泉裁判官からの起案の添削が返ってきました。正に原形を留めないほど直されてきましたので、「民事事件は初めてなんですよ。教えてくださいね」とおっしゃったのは、単なる謙遜だったのだと思わざるを得ませんでした。それと共に、「林裁判官がおっしゃっていた『とても優秀な方』というのは、本当だったんだ」と思い知らされました。

　泉裁判官は、後に最高裁裁判官になられました。今でも年に一度の京都大学の同窓会で、お会いしております。

　　弁護士法人銀座ファースト法律事務所　弁護士　田中　清