銀座ファースト法律事務所所長のつぶやき

弁護士田中清のブログ。最近気になることや、趣味のことなど雑記。

金沢31 日照権仮処分事件

 金沢地方裁判所における任官5年以下の若い裁判官の仕事は、民事合議事件の検討と、判決起案であり、もう1つは仮処分事件の処理でした。
 民事合議事件は、①簡易裁判所からの控訴事件と、②一般事件のうち難しい事件で、行政事件、労働事件、金額の大きい事件、社会的に騒がれた事件などでした。そして、①事件は、A右陪席裁判官、②事件は、B右陪席裁判官のように、別々の右陪席裁判官が担当し、裁判長はいずれも加藤裁判長、左陪席は、いずれも私でした。
 仮処分の事件は、単独で左陪席裁判官が処理しますので、責任も大きく緊張しました。
 このうち印象に残った事件は、日照権に基づく建築禁止の仮処分事件と、商号使用禁止仮処分事件でした。
 日照権事件は、金沢市のある住宅街に金沢としては初めての高層マンションを立てようとする計画で、あいさつ回りに行ったところ、住民が集団で仮処分事件を提起したというものです。日照権事件は、当時は騒がれ始めていた事件でしたので、この機会に日照権を勉強しようと思い、判例時報及び判例タイムズから日照権が問題となった事例を集め、それを読みました。また、引用されている文献などから何が問題点となっているか(日照権が被保全権利として法的に成熟した権利なのか、物権的請求権なのか、人格的請求権なのか)、損害賠償請求権のみの権利なのか、建築工事を差し止めることができる権利なのかなどが、論点となります。
 マンション業者は、若手の社長でしたが、最初は債権者(申立人)の主張にはケンモホロロの状態でしたが、私が収集した判例や文献に基づいて説得すると、私の意見にも耳を貸すようになり、最終的には、建築を認める見返りに、住民に解決金を支払う形で、和解が成立しました。
 和解ができた旨の報告をしたとき、加藤裁判長から、「田中さん、すごいね。あんなに難しい事件を和解で解決するなんてね。この事件を和解で処理できたら、裁判官として一人前だね」とおっしゃっていただいたときは、本当に嬉しかったです。

   弁護士法人銀座ファースト法律事務所 弁護士 田中 清