銀座ファースト法律事務所所長のつぶやき

弁護士田中清のブログ。最近気になることや、趣味のことなど雑記。

尼崎20 特例判事補その2 賃料増額事件

 民事事件で、苦手な事件を作るとなかなか事件は落ちません。
 処理困難な事件では、賃料増額事件が目立ちました。昭和51年ころ、物価の急上昇があったせいかもしれません。また、交通事故による損害賠償事件も、未熟な判事補にとっては、処理困難な事件の一つでした。
 私が思ったのは、処理困難な事件の征服です。言葉を変えれば、苦手な事件を作らない、苦手な事件を苦手と思わないようにするということです。
 まず、賃料増額事件です。不動産鑑定士の鑑定書を読み込むと、どの鑑定書にも、賃料の算定には、積算賃料方式と、近隣賃料比較方式と、スライド方式があると書かれています。私は、積算賃料方式は、新規賃料を定めるには優れていますが、継続賃料を定めるには、賃料が高くなりすぎて相当とは言えません。近隣賃料比較方式は、近隣の賃料の相場を見るのには参考になりますが、各近隣賃料の事例を集めるのが困難であり、また、近隣賃料といえども、賃料を決めた経緯には様々な個別事情がありますので、これを当該賃料を決める際に重視するのは相当ではありません。
 結局、私は、スライド方式が当該賃料を定めるには、一番適していると考えました。すなわち、スライド方式は、物価等の上昇率を最終合意賃料に掛けあわせて算出しますので、当該賃貸借契約には一番適した方式だと考えたのです。要するに物価の上昇率は、貨幣価値の下落に繋がりますので、最終合意賃料に物価等の上昇率を掛けあわせるというのは合理的だと考えたのです。
このようにして、2〜3の賃料増額事件の判決を書き上げると、賃料増額事件は、苦手な事件ではなくなります。
 当時、尼崎管内で、大地主で仕事をせずに、賃料増額事件を多数訴訟提起していた人が目に浮かびます。その人は計算に細かい人で、借地借家法11条、32条(当時は借地法、借家法に同様の規定がありました)には、増額した地代に賃料増額の意思表示をした日から年1割の利息を支払わなければならないのですが、和解で増額の額を決めたとしても、その年1割の利息を支払わない限り和解には応じられないとおっしゃるのです。週に1〜2回は、廊下で会いますので、相当多数の賃料増額事件を持っていらっしゃったことはよく理解できます。
 しかし、その人の仕事が賃料増額というのは、寂しいことだなあと思ったことがありました。

  弁護士法人銀座ファースト法律事務所 弁護士 田中 清