銀座ファースト法律事務所所長のつぶやき

弁護士田中清のブログ。最近気になることや、趣味のことなど雑記。

尼崎16 ある本庁刑事合議事件その1

 神戸地裁本庁で経験した、ある刑事合議事件の話です。民事合議事件については、2件の判決を書き上げたことで、私の役割は終わったはずでした。
 しかし、昭和50年8月ころ、橋本尼崎支部長から、「田中さん。本庁刑事部からも填補の要請が来ており、週1回、本庁刑事部に填補に行ってもらえませんか。」という話でした。もちろん、職務命令ですので、私は、即座に「分かりました。行かせていただきます。」と答えました。なお、填補とは、本庁の裁判部の一員として、本庁に出張して裁判に携わることです。

 その事件は、暴力団の抗争事件でしたが、15年前の殺人未遂事件で、A被告人とB被告人がピストルでC暴力団事務所を襲撃し、2発の銃弾をC暴力団事務所に撃ち込んだというものでした。
 起訴状は、「A被告人及びB被告人は、共謀の上、C暴力団事務所に所在するD組員らを殺害しようと企て、拳銃2発を撃ち込んだが、銃弾が逸れたため、D組員らの殺害の目的を遂げなかったものである。」というような記載だったと思います。刑事の起訴状や判決文は、小説家などから悪文の典型とされています。なぜなら、1つの文章で無理やり纏めているからです。しかしながら、なぜ1文で纏めるのかについては、後に述べるとおり深い意味があったのです。

 1審判決は、A被告人につき懲役10年、B被告人につき懲役8年の刑にしました。しかし、1審判決の罪となるべき事実には、「A被告人及びB被告人は、共謀の上、C暴力団事務所に所在するD組員らを殺害しようと企てた。そこで、拳銃2発を撃ち込んだが、銃弾が逸れたため、D組員らを殺害する目的を遂げなかったものである。」のような判決になったのです。
 控訴審判決は、「1審判決の罪となるべき事実には、誰が拳銃を撃ち込んだのかが分からない(途中で文章が切れており、罪となるべき事実の2文には主語がない)。したがって、A被告人及びB被告人についての「罪となるべき事実」が記載されていないというべきである。」旨判示して、原審に差し戻したのです。
 私は、本庁刑事部の裁判官の一員として、本庁刑事部に出張し、終結した上記事件の記録を読み、判決起案をすることにしました。

  弁護士法人銀座ファースト法律事務所 弁護士 田中 清