銀座ファースト法律事務所所長のつぶやき

弁護士田中清のブログ。最近気になることや、趣味のことなど雑記。

尼崎15 2つの大事件その2

 本庁合議部からもらった2つ目の事件は、ゴルフ場造成中に集中豪雨があり、ゴルフ場の土砂が土石流となって、ふもとの旅館を押し流した事件でした。ゴルフ場も旅館も誰でもご存知の有名な場所ですので、このブログでは仮名にすることにしましょう。
 記録は段ボール箱で8箱あり、やはり池田市五月丘の官舎に送り届けていただきました。前の船舶の瑕疵事件の記録段ボール箱7箱と引換に、段ボール箱8箱が届きましたので、少しだけ、部屋が狭くなりました。
 やはり、橋本支部長から「地裁刑事合議事件だけ立ち会って、終結した事件だけ判決を書いてくれたらいいよ。残りの日は、宅調でいいよ」と言われ、お言葉に甘えることにし、週1回だけ尼崎支部の裁判所に出かけ、残りは自宅で、ゴルフ場瑕疵事件の判決起案に専念させてもらいました。
 事件は、ゴルフ場の開発許可を下した兵庫県とゴルフ場開発会社が被告となっていました。事案としては、ゴルフ場の計画に瑕疵があるといえるかどうか、それを許可した行政処分に瑕疵があるといえるか、損害額はいくらかが争点でした。
 私は、このころは、ゴルフをしませんでしたので、各ホールのティーグラウンド、フェアウェイ、グリーンがどうなっているとか言われても余りピンときませんでしたが、すごい面積のゴルフ場だなぁということは、分かりました。
 7月上旬ころになって、船舶瑕疵事件とゴルフ場瑕疵事件の合議のために神戸地裁本庁に行き、船舶瑕疵事件については、瑕疵の存在と損害額、相殺の可否について合議をしました。さらにゴルフ場瑕疵事件については、上記の各瑕疵の存在について合議をしたあと、損害額についての議論をしました。
 私が特に覚えており、その後の法曹人生に大きな影響を与えたエピソードは、損害の認定についてです。
 ゴルフ場の計画に民法717条の瑕疵があり、損害を支払うべきなのですが、損害の証拠は旅館のご主人Aさんの陳述書しかありません。Aさんは、「今では、すべて流されてしまいましたが、少なくとも座卓100個、座椅子400個、食器2000点、日本画50個……などがありました。」と陳述し、Aさんの法廷での供述も同旨の供述があります。

 私は、松浦裁判長に対し、「このようなAさんの供述のみで、損害を認定していいのでしょうか。」とお聞きしました。
 松浦裁判長は、間髪を入れずに、「旅館が流されたんだよ。Aさんの陳述以外にどういう証拠をもって証明せよというんだね。大きな旅館なんだから、座卓100個、座椅子400個、食器2000点くらいはあるよ。日本画だって、50個くらいはあるよ。損害を認めていいんだよ。」とおっしゃいました。
 私は、「なるほど、この事件で損害を認めないことは、非常識な裁判の結果になってしまう。認めるべきなんだ。」と強く思いました。
 確かに、損害を誇張して供述する人もおりますので、そのときは、経験則に基づき、控えめな認定をすべきでしょうが、このAさんの旅館の規模では相当な規模の家財・什器備品等でした。
 私は、その後、この事件を例にとり、何人の人にこの事件の認定の話をしたことでしょうか。それほど印象的な事件でした。

  弁護士法人銀座ファースト法律事務所 弁護士 田中 清