銀座ファースト法律事務所所長のつぶやき

弁護士田中清のブログ。最近気になることや、趣味のことなど雑記。

大学44 論文式試験その2

 私は、司法試験の昭和43年度の論文式試験問題を、7〜8割方覚えている。
 しかし、このブログに書く以上、正確な問題を知りたいと思い、本日、インターネットで過去問を調べてみたところ、昭和43年度の過去問を探し出すことができた。これによると、憲法及び民法もほぼ記憶通りであったので、ホッとした。

 2日目は、刑法であった。
 刑法の1問目は、「使用窃盗」であった。不法領得の意思の問題を中心に判例にも触れ、無難な答案を纏め上げたと思う。
 刑法の2問目は、事例問題であり、「甲は、乙を殺すつもりで、乙に向かってピストルを撃ったところ、弾丸は乙にかすり傷を与えた上に、かたわらにいた丙に当たって、丙を死亡させた。この場合における甲の罪責につき、自説を述べ、併せて反対説を批判せよ」であった。
 団藤先生の刑法綱要総論では、「甲は、乙を殺すつもりで、乙に向かってピストルを撃ったところ、弾丸は乙に当たらずに、かたわらにいた丙に当たって、丙を死亡させた。」という問題が設定されており、団藤先生は、法定的符合説を採用され、殺意をもって実行行為をし、殺害の結果を生じさせたのだから、殺人罪に問われるとの説を展開されていた。
 しかし、刑法綱要総論の細かい字で、具体的符合説という反対説があり、それは、乙に対する殺人未遂罪と丙に対する過失致死罪に問えば足りるとの説であった。私は、以前から具体的符合説の方が理論的ではないかと思っていたが、この設問を見たとき、法定的符合説では説明が難しく、この設問こそ具体的符合説で説明すべきであると思った。すなわち、設問では、乙は、かすり傷ではあるが、負傷しているからである。
 私は、直ちに、これまで勉強をしてきた団藤説(法定的符合説)を捨て、具体的符合説を採用し、乙に対する殺人未遂罪と丙に対する過失致死罪が成立するという結論を述べ、法定的符合説は罪刑法定主義に反するなど7つの論拠をもって、法定的符合説を徹底的に批判した。
 刑法1問は、◎という自己採点ではあったが、帰りの電車の中で、「しまった!窃盗罪の保護法益を書くのを忘れた。窃盗罪の保護法益は、所有権と占有権であるが、使用窃盗では占有権も保護法益になることは、絶対に述べなければならないことだ。もう駄目だ。落ちるかもしれない」と思った。そこで、自己採点を◎から△に変更した。
 刑法2問は、自説を述べた上で、反対説も徹底的に批判したので◎とも思ったが、試験会場で、これまでの団藤説(法定的符合説)を捨て、具体的符合説を書いたので、不安もあり、○とした。

 なお、私の自己採点は、◎は合格答案確実、○は合格答案と考えられるがやや自信がない、△は合格答案かもしれないし、不合格答案かもしれない(合格答案であるという自信がない)、×は不合格答案の可能性が高いというものである。

  弁護士 田中 清