銀座ファースト法律事務所所長のつぶやき

弁護士田中清のブログ。最近気になることや、趣味のことなど雑記。

金沢その7 ある刑事事件について

 先日、初めての刑事事件(金沢その2)のことを書いたが、もう一つ忘れられない強姦未遂事件がある。
 若い23歳くらいのOLのA子さんが、いつものように金沢駅から降りて自宅に向かう途中に、人通りの少ない場所がある。そこに被告人3名が乗った乗用車が来て、いきなりA子さんを車の中に引きずり込み、そのまま野田山に連れて行ったというものである。A子さんは、強姦しようとする3名に対し、腕に噛みついたり、睾丸を力の限り握り締めたりした結果、3人は強姦を諦め、元の場所までA子さんを送り届けた。そして、A子さんは、覚えていた車のナンバーを警察に通報し、告訴した結果、3人が強姦未遂罪で起訴されたというものである。
 3人の被告人は、いずれも22歳の会社員で、高校時代からの遊び仲間ということだが、前科前歴は全くない。見たところ、真面目そうな青年という感じである。A子さんに示談を申し出たが、A子さんは、全く応じなかった。

 私は、実刑にしようか、執行猶予にしようか、迷っていた。示談はできていないが、A子さんは、自らの手で抵抗し、幸いにも未遂に終わり、貞操を守り切った。被告人らは、前科前歴もなく、会社員として真面目に働いている。示談はできていないが、被告人質問の結果からしても十分反省しているように見受けられたし、3か月間拘置所に勾留され、社会的制裁も受けている。
 私は、裁判長と上野裁判官に、「執行猶予でもよいのではないでしょうか」と申し出た。
 すると、上野裁判官から、「田中さん、これは駄目だよ。A子さんには、何の落ち度もない。要するに、どんな女性でも被害者になり得る事件だから、許せないと思う。示談もできていない。私は実刑だと思うよ。」との意見が出た。それを聞いていた加藤裁判長からも「私も上野さんの意見に賛成ですね。非常に危険な人たちだと思う」との意見だった。上野裁判官は、「余罪を量刑に含めることはできないのは当然ですが、これは、氷山の一角で、この被告人たちは、同じような犯行態様で、何件も成功しているのではないでしょうか。」とおっしゃったのが印象的だった。

 私は、事件の見方の甘さをこのときも恥じた。「結果的に未遂に終わったのだから、許してやってもいいのではないか」と思っていたからである。
 私は、2人のご意見を聞いて、「私の見方が足りませんでした。実刑で良いと思います」と述べた。
 前に書いた事件も被害者の過失であり、今度の事件は、被害者の無過失である。なるほど、事件の背景は、ここまで見通さなくてはならないとつくづく思った。

   弁護士 田中 清(弁護士法人銀座ファースト法律事務所)