銀座ファースト法律事務所所長のつぶやき

弁護士田中清のブログ。最近気になることや、趣味のことなど雑記。

池袋暴走事故判決

池袋で2019年4月、当時87歳の高齢者が運転する車が暴走し、当時3歳の松永莉子ちゃん(当時3歳)と母親の真菜さん(当時31歳)がはねられ死亡した事件がありました。2人を死亡させたうえ、男女9人に重軽傷を負わせたとして自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)の罪に問われた飯塚被告(現在90歳)に対し、東京地裁は、2021年9月2日、禁錮5年の実刑判決を言い渡しました。


2020年10月に始まった裁判で、争点となったのは、飯塚被告に運転ミスがあったかどうかです。 検察側は、「ブレーキと間違えてアクセルを踏み続けたことに疑いの余地はない。2人を死亡させたうえ、男女9人に重軽傷を負わせた本件事故の責任は余りにも大きい。」として法廷刑上限の禁錮7年を求刑しました。


本来、被告人が罪を認め、遺族への謝罪と反省の弁を述べていれば、実刑判決までは出なかったでしょう。しかし、被告人は、「アクセルとブレーキを踏み間違えた記憶は全くない。車両に何らかの異常があったと考えられる」と一貫して無罪を主張しました。


 

東京地裁は飯塚被告に禁錮5年の実刑判決を言い渡しました。 判決は、「被告人は、約10秒間にもわたってブレーキペダルと間違えてアクセルペダルを踏み続けた。被告人の過失は重大である」 として、事故の原因を「被告人の一方的な過失だ。」と認定しました。


裁判官は、「事故により母子2人の尊い命が失われた。事故の際に2人が感じたであろう驚愕や恐怖の精神的苦痛と身体的苦痛は、我々の想像を絶するものであったと思われる。2人は、本件事故により突如として将来への希望や期待を断たれ、愛する家族と永遠に別れなければならなかったものであり、その無念は察するに余りある」と指摘する判決を読み上げました。 裁判長は最後に飯塚被告に対し、「納得したのであれば、過失を認めた上で、被告人は被害者遺族に真摯に謝っていただきたい」と呼びかけました。


遺族の松永拓也さんは「判決を聞いて、すごく複雑な感情になりました。やっぱり、本心を言ってしまえば、2人の命は戻らないという虚しさを感じる。でも、この判決は私達が前を向いて生きていくきっかけになると思います。やってきてよかった」と語ったということです。


判決を聞いて、懲役5年は軽いと思った人もいるでしょう。


しかし、私は、法定刑の上限に近い禁固5年の刑は、裁判所としてもギリギリの重い刑を言い渡したのだと思います。故意の殺人であれば格別、自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)の罪(過失犯)では、上限に近く、被告人に有利な情状として、これまで社会的に貢献し、真面目に生きてきたこと、被告人は高齢であることなど有利とみられる事情を十分考慮した上で、精一杯の重い刑を言い渡したのだと思います。



銀座ファースト法律事務所 弁護士 田中 清