高校18 赤尾の豆単
飛込み台の件から1週間くらい後だったと思う。
スーちゃんから私に話しがあるというので、校庭の芝生のところに連れて行かれた。
「清さん、一緒に豆単やらへんか」というのである。豆単というのは、旺文社の赤尾好夫編の英語の単語帳のことである。現在、手許に現物があるので測ってみると、縦12cm、横7cm、単語の部分だけで、537頁ある。
スーちゃんは、話を続ける。「清さんも英語が苦手やんけ。俺も英語が苦手や。それで、豆単を一緒に覚えたら、ええかなと思うて」
私も大賛成だった。「うん、やろう、俺も英語の学力上げるには、それしかないと思う。」正に、起死回生の勉強方法の提案だった。
私には、これから何人か救いの神が現れるが、スーちゃんは、その1人目だったと思う。
2人でやり方を相談した結果、次のようなやり方でやることにした。
明日から、毎日10頁ずつ。次の日に、覚えた範囲からお互いに20問の試験問題を作り、試験の点数を付ける。負けた方は、勝った方にアイスクリームをおごる。体育祭当日、日曜日・祝日のみ休み。11月17日に完成する。
スーちゃんが、私を相手に選んだ理由について語った。「この1週間、ずっと考えてたんやけど、やっぱり、清さんしかいないと思うてた。飛込み台一緒に飛び込んだやろ。あのときに、清さんのこと、根性ある奴やなと思うた。清さんとやったら、最後まで続けられるかなあと思うて」
「分かった。一緒に頑張ろう。途中で、逃げ出すなよ」
「分かったよ。清さんもな」
これから、毎日の戦いが始まった。
学校帰りに書店に行き、赤尾の豆単を買った。そしてabandon(捨てる)からaffect(影響する)までの10頁を覚え、試験問題を作った。
下記の写真は、手許にあった赤尾の豆単である。スーちゃんとのこのときの苦労の毎日を思うと、処分することができず、今も本棚の隅に置いてあったものである。
弁護士 田中 清(銀座ファースト法律事務所)