銀座ファースト法律事務所所長のつぶやき

弁護士田中清のブログ。最近気になることや、趣味のことなど雑記。

裁判官任用試験その1

 裁判官任用試験は、面接である。
 私は、もともとは弁護士志望だったが、野崎判事から裁判官になることを勧められて裁判官志望に変更したことは、既にブログで述べたとおりである。したがって、7年くらい裁判官をして、それから辞めて弁護士になってもよいとも思っていた。裁判官は、東京中心で回ることが出世の早道と言われていたが、私には、もともと出世願望はなかった。したがって、裁判官の任地希望欄には、「官舎のあるところ」と書いた。新任裁判官に官舎が準備されていないのは、東京と大阪であったので、「どんなところでもいいから、国民のためになる裁判官を目指そう。」と思っていたのである。また、私は、当時新婚であり、家賃の負担は困難であると考えていたので、「官舎のあるところ」と記載したのである。
 当時は数名程度の任官拒否(裁判官不採用)が例年のようにあった。私に対しては、教官から「裁判官は止めた方がいいよ」という肩叩きがなかったので、「裁判官を希望してもいいのだな」と何となく思っていた。

 裁判官採用面接は、最高裁判所で行われたと記憶している。10人くらいの面接官が居たが、顔を知っていたのは、矢口洪一人事局長だけだった。矢口さんは、その後最高裁裁判官となり、最高裁長官となった人である。
 冒頭、矢口局長から「君は、『官舎のあるところ』と記載しているが、あえて言うと、どこを希望するかね」と言われたので、「場所はどこでもいいのですが、あえて言うと、太平洋側を希望したいと思います」と答えた。局長が「ほう、それはどうしてかね」と聞かれるので、「日本海側は、冬季の天候が悪いので、太平洋側を希望したいのです」と答えると、局長は「しかし、裁判官になると、太平洋側も日本海側も、どちらにも行くことになるよ」と言われるので、私は「いや、どちらでも結構です」と答えた。
 別の面接官が、「今、日照権という権利が騒がれているが、日本海側は日照が少なく日照権が侵害されていると思わないかね」と聞かれたので、私は、「日本海側が日照が少ないのは、自然現象ですし、違法性もないので、日照権侵害の問題は起こらないと思います」と答えた。
 最後に、矢口人事局長が「君は、元来優秀なのに、勉強が足りないのではないの。裁判官になったら、もっと勉強して、立派な裁判官になるようにしなさい」と言われたので、私は、「はい。分かりました。頑張ります」と答えた。

 私は、このとき、「裁判官に任用されることは間違いがない」と確信した。なぜなら、「裁判官になると、太平洋側も日本海側も、どちらにも行くことになるよ」という言葉と、「裁判官になったら、もっと勉強して、立派な裁判官になるようにしなさい」という言葉は、裁判官に任用することを前提とした言葉だったからである。

  弁護士 田中 清(弁護士法人銀座ファースト法律事務所)