銀座ファースト法律事務所所長のつぶやき

弁護士田中清のブログ。最近気になることや、趣味のことなど雑記。

金沢その2 刑事部合議

 金沢地裁に赴任したのは、私と、同期の塚田渥裁判官だった。私は24歳、塚田さんは27歳だった。金沢では、民事部と刑事部の左陪席に、私と塚田さんのどちらかが座ることになると聞いた。そして、2人の在任期間は、3年間である。
 刑事部の加藤義則裁判長が、「2人ともいずれ、民事・刑事両方をするのだから、話し合って決めたらいいですよ」とおっしゃったので、塚田さんと話し合った結果、塚田さんが民事部に、私が刑事部に行き、1年6か月で交代するということになった。
 刑事部の加藤裁判長は15年目、右陪席の上野精裁判官は12年目の方で、上野さんからは、「加藤さんも私も、もともと民事裁判の方が長くて、得意なんですよ。2人とも名古屋高裁管内出身です」と伝えられた。
 加藤裁判長は2軒隣の官舎、上野裁判官は、10分くらい離れたところの官舎にお住まいだった。
 初めての刑事事件判決は、Y被告人で強姦罪だった。女性を脅して強姦したのであるが、被告人は、23歳と若く、前科前歴もなく、定職にもついていた。雇い主の身柄引受書も提出されていた。一方、被害者の女性は若い未婚の女性で、その精神的ダメージは相当深いものと考えられた。しかし、示談が成立し、被害弁償もしていたのが救いだと思った。
 初めての判決である。私は、夜も昼もY被告人を実刑にすべきか、執行猶予にすべきかを思い悩んでいた。
 刑の主文のところだけを空白にして、「罪となるべき事実」「法令の適用」「量刑理由」をほとんど書き上げ、裁判長と右陪席に、「私は、執行猶予にすべきなのか、実刑にすべきなのか迷っています」と訴えた。
 すると、裁判長は、「これは、執行猶予でしょう。前科前歴もなく、定職にもついている。示談も成立しているのだから」と簡単におっしゃった。私は、「それでも、被害者の精神的ダメージを思うと果たしてそれでいいのかと思うのです」というと、上野判事が「でも、示談も成立しているからね。これは、執行猶予でいいんじゃないですか。それに、この事件は、被害者側にも過失があったと思いますよ」とおっしゃった。
 「なるほど、このようにして量刑を決めていくのか」と思い、1週間悩みぬいた結論が、あっという間に決まったことに拍子抜けした。
 そして、私の観点が抜けていた点として、「被害者の過失」に言及しなかったことを恥じ入った。

  弁護士 田中 清(弁護士法人銀座ファースト法律事務所)