銀座ファースト法律事務所所長のつぶやき

弁護士田中清のブログ。最近気になることや、趣味のことなど雑記。

金沢その5 七尾支部への出張と印鑑

 金沢地裁では、金沢地裁本庁のほかに、甲号支部として七尾支部、乙号支部として小松支部と輪島支部があった。
 七尾支部と小松支部には、各1人の裁判官が常駐していたが、輪島支部には裁判官は常駐せず、七尾支部の裁判官が出張していた。そして、七尾支部は、甲号支部であるので、刑事の合議事件を担当していた。刑事の合議事件は、殺人罪、放火罪、強姦罪など、短期1年以上の重い罪であり、法律上、3人の合議で裁判しなければならないことになっている。したがって、七尾支部で、殺人事件が起訴されたときには、本庁から私ともう一人が出張して裁判に立ち会うことになっていた。もちろん、刑事の裁定合議事件(必要的な合議事件ではなく、事実認定等が難しい事件)も扱っていた。
 七尾支部への出張は、月に1回だった。金沢発午前8時ころの電車に乗り、9時半頃、七尾駅に着く。その出張は、本庁から民事の右陪席裁判官と刑事の左陪席裁判官が行くことになっており、民事の右陪席裁判官である林裁判官又は北沢裁判官と刑事の左陪席裁判官である私が行くことになっていた。
最初の七尾支部出張のときは、林裁判官と一緒に出張した。
 七尾支部に着いて、書記官から「田中判事さん、印鑑を押していただけますか」と言われた。
 私は、咄嗟に、「すみません。印鑑を持ってくるのを忘れました。申し訳ございません。」と謝った。
 そのとき林裁判官が、「田中さん。裁判官は、常に印鑑を持っていなければ駄目だよ。特に支部に出張するときは、絶対に持っていなければ駄目だよ」と注意された。
 私は、顔から火が出るように恥ずかしい思いをした。「よし、これからは、絶対に印鑑を持ち歩こう」と思ったものである。

 前にも、別のブログでも述べたが、裁判官に注意する人は少ない。先輩の裁判官でも後輩の裁判官に注意することを躊躇われることも多い。したがって、この印鑑の注意は、数少ない注意の1つであり、私は、「二度と同じ間違いをしない」と心に誓った。

 七尾では、林裁判官又は北沢裁判官と昼にホルモン定食か、海鮮丼定食を食べることを楽しみにしていた。

  弁護士 田中 清(弁護士法人銀座ファースト法律事務所)